【軒(のき)】軒の短い住宅は雨漏りリスクが高いって本当?~メリット・デメリット・雨漏り対策~
近年、デザイン性を重視して、あえて軒(のき)をつけない住宅や陸屋根の住宅が増えてきているように思います。
とってもスタイリッシュで、見ているだけでもワクワクするようなお宅に遭遇することも。
しかし軒をつけない建物で暮らすということは、メリットだけではなく、それによって生じるデメリットもきちんと理解しておかなくてはなりません。
今回は軒ゼロ住宅について解説します。
◎軒(のき)の持つ役割
軒(のき)とは、外壁から張り出すように出ている屋根の端っこの部分になります。
軒下で夕涼みをしたり、空模様が不安定な時に洗濯物を干したり、季節によっては干し柿や切り干し大根を干したり・・・。
かつての日本家屋には、必ず軒(のき)がありましたが、何かと便利に使える屋根の延長として存在しているわけではなく、きちんとした役割を持っています。
軒は、軒の出が大きければ大きいほど紫外線や雨水から外壁を守り、劣化速度を緩やかなものにします。
また、夏の暑さが厳しい季節には部屋へ入る直射日光を妨げたり、建物の向きによっては室内に入りすぎる西日も妨げたりと日差しの調整をします。
雨天時には雨除けの役割があり、室内への吹き込み防止に役立ちます。
◎軒のない家(軒ゼロ住宅)が増えてきた理由
先程から出てくる『軒ゼロ住宅』とは、どのような住宅を指すのでしょうか。
軒ゼロ住宅とは、軒部分が25cm以下の住宅のことです。
築年数の経過している昔ながらの戸建て住宅は、軒が大きくとってあるのが特徴でした。
しっかりと長さのある軒があることで、夏は強い日差しを遮り、冬は斜めからの日差しを取り込んで室内の明るさを確保することが出来ていました。
また、雨の日でも窓を開けて風が通せるようになっていたことは、四季があり、雨の多い日本ならではと言うことが出来ます。
しかし時代が進み、近年では一般家庭でもエアコンが設置されている場合が多く、外気温をさほど気にすることなく、1年を通して室内で快適に過ごすことができるようになりました。
そのため軒を長く取るよりも、デザイン性や居住スペースの確保という面で重視した設計が目立つようになっています。
◎軒ゼロ住宅のメリット
①デザイン性が高い
デザイン重視で設計された住宅の屋根には、軒ゼロ住宅が多く採用されています。
片流れ屋根にソーラーパネルを配置したようなものや、一見ボックスのような外観のシンプルモダンなものなどを、よく目にします。
②居住スペースの確保
もともとの土地が狭小地であったり、隣接する住宅との間隔が非常に狭い場合、軒ゼロにするケースが一般的となっています。
軒ゼロにすることで、建ぺい率ギリギリまで居住空間を確保しています。
③建築コストの削減ができる
軒をしっかりと取ると、その分屋根材やそれに付随する部材費用、施工費用が掛かります。
軒ゼロ住宅にすることで、建築費用を抑えることが出来ます。
④室内の明るさが確保できる
日中は窓から自然光をたっぷりと取り込み、部屋全体を明るさを確保できます。
窓の向きや高さ、大きさによって、日中は部屋の照明を突けている時間を減らすことができ、光熱費削減に繋がります。
◎軒ゼロ住宅のデメリット
①外壁劣化速度が速くなる
どんなに優秀な塗料で外壁塗装を施していても、直射日光を受けている時間が長くなりますので、軒のある住宅と比べると劣化速度は速くなってしまいます。
特に外壁材同士をつなげる役目を持っているシーリング剤は紫外線に弱いため、その劣化は雨漏りの原因となる場合があります。
②壁内に浸水しやすい
雨漏りの原因は、屋根からよりも外壁からの方が多いとされています。
壁面に直接雨や風などが当たるため経年劣化や台風被害などによって、小さなクラック(ひび割れ)が発生し、壁内に水が回りやすくなります。
③室外機や給湯器が傷みやすい
エアコンの効きを良くするための方法として、室外機に直射日光や雨水が直接当たらないように屋根を付けるというものがあります。
室外機と同様に、屋外に設置しなくてはならない給湯器にも、同じことが言えます。
軒ゼロの場合は、室外機や給湯器は紫外線や風、雨水などを直接受け続けることになりますので、どうしても傷みやすくなってしまいます。
④日差しや雨が室内に降り込む
メリットとデメリットは紙一重です。
室内の明るさを確保することが出来るのはメリットでもありますが、その分強い日差しが入ってくるために、窓際の床材は日焼けしやすい環境下にあります。
また軒ゼロ住宅の場合、どんなに弱い雨であっても窓を開ければ室内に降り込んでしまいますので、雨天時にはどうしても家全体を締め切ることになってしまいます。
◎雨漏り対策
①外壁材にタイルを採用する
外壁タイルは防水性と耐久性が高く、非常に頑丈な上に、メンテナンスの頻度が低い素材です。
軒ゼロの住宅では、外壁を塗装するよりもタイル張りにすることで、外壁が原因の住宅トラブルを防ぐことができます。
②窓周りに庇(ひさし)をつける
庇(ひさし)は軒(のき)と一緒に考えられがちですが、庇は屋根の延長ではなく、窓や玄関といった開口部の上に取り付ける小さな屋根のことで、後付けが可能な小屋根です。
その形状や特長、機能としては軒と庇は変わりませんので、設置することで少なくともシーリング材が多く使われている窓回りだけでも守ることが出来ます。
③外壁に防水対策をする
外壁の防水対策は、専門業者に依頼する作業になります。
外壁材に磁器タイルなどを採用したり、防水機能のある塗料で外壁塗装をしたり、外壁仕上げ前に防水シートを貼ったりするといった方法があります。
④雨樋のお手入れ
手の届く範囲でかまいませんので、雨樋を定期的に掃除すると雨漏り対策として有効です。
雨樋に落ち葉や砂埃などが貯まっていると、排水が悪くなり詰まりを起こします。
排水不良になった場合、雨水が地上に降りるには外壁を伝って流れ落ちるしかありません。
ただし、手の届きにくい箇所や2階以上は安全確保のため、業者に依頼をしてください。
⑤定期的な点検
新築時はピカピカでも、いつまでもその状態が続くわけではありません。
建物は建てた時から、本当にゆっくりと劣化が始まるのです。
住宅メーカーの定期点検や、専門業者により建物点検を依頼するなどして、雨漏りの原因となりそうな箇所を早めに見つけて補修しましょう。
小さなひび割れ(クラック)も放置し続けることで大きなひび割れとなり、侵入した
雨水が躯体を傷め、意外な場所から雨漏りする場合があります。
雨漏りの原因特定は、プロでも難しいとされています。
小さな補修で済むよう定期的に点検をすることで、雨漏りを未然に防ぐことができます。
⑥火災保険で備える
経年劣化ではなく、自然災害が原因の雨漏りであれば、加入している火災保険を利用して無償修理できる場合があります。
見積金額が20万円未満であれば保険の申請はできませんが、雨漏り補修となると、その状態によっては高額になることも考えられます。
火災保険の契約内容を確認し、万が一の時に備えておくと良いでしょう。
◎まとめ
特に都心部に多く見られる傾向にある、軒ゼロ住宅。
軒のない住宅は、スタイリッシュで洗練されたイメージがあるため、軒ゼロ住宅の最大のメリットは『美観』ということが言えるでしょう。
しかし木造住宅の場合、木材は湿気に弱いため、シロアリの発生なども懸念されます。
美観を取るのであれば、それなりの防水対策や日々のメンテナンスが必要となります。
また、長期的なメンテナンス費用も考えた上で、軒のある家とない家のどちらにするのかを選ぶ必要があるように思います。